Astorga → Foncebadón 25.9km あと236.5km

アストルガを後に、国道わきの道をどんどん行きます。標高が少しずつ上がっていき、右下には深い森の中に川沿いの村の気配を感じます。小さな山村をいくつか越え、バルでお腹を満たし、少しずつ少しずつ、高度を稼いでいきます。国道脇といっても、ちゃあんと歩く人のための道が作られていて、車に悩まされながらアスファルトの上を歩くことはありません。

標高が上がるにつれ、背の低いヒースのお花畑が見えてきます。目指すフォンセバドンの一つ手前の村、ラバナル・デル・カミーノRabanal del Caminoがもうすぐという時に、巡礼者たちの会話を聞きました。

「今日はどこまで?」「フォンセバドン」「おや、僕も」。

ふと不安になってカミーノアプリを見直します。なんと、フォンセバドンの公営アルベルゲ(巡礼宿)は18床しかありません。今まででダントツの小ささです。ほかにアルベルゲは1軒しかなく、しかも高い! げ! 現金が足りない。カードが使えなかったら、そしてもしかして公営アルベルゲがいっぱいで、もう1軒の私営アルベルゲも予約でいっぱいなら、今夜宿なしになるかも。山の上で吹きさらされながら野宿をする自分を思い浮かべます。

ざっと前に、15~16人は歩いています。公営アルベルゲは予約はとらないけれど、受付が12時。この人たちは皆ライバルでしょうか。道中のランチは何にしようかな、と楽しみにしていたのを取りやめ、スーパーでバナナとナランハ(オレンジ)を買ってささっとエネルギー補給。その後、ヒースの美しい山道を飛ばしに飛ばし、なんと15人抜きを達成しました。昨日と違ってフル装備背負っていて、しかもアストルガからの標高差は500m。服は絞れるほどに汗で濡れました。

ぜいぜい言いながらたどり着いたフォンセバドンは、天空の村でした。標高1400m。しっかり車道も通り、高原リゾートのようです。眼下にはるかメセタが遠くまで見渡せます。誰かがあそこが今朝の出発地、アストルガだと教えてくれました。

なんのことはない、受付開始から1時間過ぎていたけど目指す公営アルベルゲに5番目に入り、アルベルゲもほかにたくさんありました。でも、この宿は、巡礼路でも忘れられないもののひとつとなりました。小さな石づくりの教会。オスピタレロ(世話・管理人)の女性は、欧米人には呼びにくい私の名前をすぐに覚えてくれ、キョーコ、キョーコと呼びながら、皆で食べるレンズ豆のスープの作り方を指南してくれました。夕食のしたくを終えると「いいものを見せてあげる」と、皆を連れて外に出て、朽ちかけた石の鐘楼を見せてくれました。この巡礼路で一番古い救護所、そして今宵の宿は、一番古いアルベルゲだそうです。今日私が15人抜きを果たした山道も、はるか昔には覚悟して通らなくてはならない難所だったでしょう。そしてこの先にさらにイラゴ峠が控えています。このアルベルゲが、あの鐘楼が、どれほど巡礼者を助け、そしてあのスープが人々を元気づけたのかと思うと、胸が熱くなりました。